紫陽花
住んでいるマンションに大きな庭がある。
それは鬱蒼とした緑で覆われていて、まるで森の断片を見ているようだ。
一見乱雑に生えてるように感じていたけれど、一年住んで分かったのは、四季折々の花たちが一番自然に美しく輝くように配置されていたこと。大家さんの見事な手入れで、その森はなんらかの秩序に基づいて生息しているようだった。
私は時々、ベランダからその森を眺める。緑の匂いがむんとして、湿度の高い空気が部屋に流れ込んでくる。私がこの部屋に決めたのは、この匂いもひとつの要因。
今朝も眺めていたら、大家さんが「これいる?」と紫陽花の花束を差し出してくれた。先週から紫陽花の花でいっぱいになった庭を、汗を拭きながらこまめに手入れしていたっけ。
雨降らないからねえ、少し枯れてきてしまったの、と言いながら渡された紫陽花。さっそく水切りをするために寝かせたら、白い洗面台がぱあっと華やかになった。
それを見ながら、私の心にも明るい何かが咲いたような。そんな気持ちになった。